リスタート
「自分のルーツを辿りたい。」
墓参り後に兄が突然言い出した。
何の突拍子もなく、突然。
どういう風の吹き回しだろうと思ったが、とても興味深かった。
実は私も過去に辿ろうとしたことがあった。
今母が住んでいる家からは車で30分以上、バスだと約3回の乗り換えと1時間以上かかる移動時間。
道幅も狭く、ペーパードライバーの私には無理だと断念。
あの地域に未だに住んでいる友人とはもう一切連絡を取っていない。
母を付き合わせるのもなぁ、、、
そう思っていたところに現れた、運転もできてあの頃の思い出を語り合える丁度いい存在。
何故今まで気づかなかったのだろう。
それは祖母が病気になるまで兄が一切実家に帰ってこなかったからだ。
いや、「帰ってこなかった」ではなく、「帰れなくなった」に等しいのだけども。
兎にも角にも、「私」という人間の人格を形成した、16年前に住んでいた地域に行ってみることになった。
木造で日当たりの悪そうなボロッボロの平屋。
それが熊本に引っ越して初めて住んだ家だった。
その家はいまだに健在で、16年経った今も見た目が全く変わっていなかった。
しいて言うなら、隣の家との境界線に柵が立っていたくらい。
お向かいの家は違う人が住んでいて、小学校の通学路にあった田んぼや畑は全て住宅に様変わり。
あの頃より自分が成長したせいか、わからないけど、通学路がすごく狭く感じた。
深呼吸しても息苦しいくらい。
でも、上を見たら、あの頃と変わらない夏空が広がっていた。
時期は丁度夏休み終盤。
少子化で子供が減ったせいか、通っていた小学校が分校したせいか、夏休みの宿題を家でラストスパートをかけてやっているのか、わからないが、
住宅が密集している割には子供の姿が全くなかった。
私が子供の頃は、道を歩けば誰かしらが歩いていて、家の近くの公園には誰かしらが遊んでいた。
小学校に行くと、学校のシンボルだった木が切られていて、中庭のアスレチックがなくなっていて、暑すぎて下敷きで仰ぎながら授業を受けたプレパブ校舎がなくなっていた。
分校して生徒数が減り、必要なくなったから取り壊されたのだろう。
見晴らしが良くなった広い校庭で、保護者の迎えを待つ野球部の姿も見れた。
元野球部の兄が当時使っていたボロボロの部室を懐かしそうに覗く。
はたから見たら不審者だったに違いない。
祖母と手を繋いで歩いた保育園までの道のりで、
「ここ、ばあちゃんと歩いたなぁ。」
と兄が呟く。
あの頃は20分以上かけて歩いていたのに、今では車で5分くらいで通る。
大人になったんだなぁと実感する。
そりゃ祖母もいなくなるよなぁ。
祖母が亡くなって来月で一年。
色々あって母と絶縁状態だった兄だが、法事に出席するために地元に帰ってくるようになった。
「最低でも三回忌までは法事に参加してほしい。」
という私のお願いをなんだかんだ聞いてくれる私の兄は、なんだかんだ優しい。
そのおかげで、年に一回だけだけど、我が家に家族団らんが戻ってきた。
いなくなった存在は大きいけれど、戻ってきたものも大きい。
私の家族がやっと、再スタートした気がした。