匂いと記憶

外に出たい。

そう思ってはいるものの、なかなか動き出せない。

着替えるのめんどくさいなぁ。

あ、昨日買った肉を小分けにして冷凍しないと。

あ、ご飯炊かないと。

そうやって外に出ない理由を探して、うだうだして。

ベットでうたた寝してるうちに17時。

やばい、日曜日が終わってしまう。

重い腰をやっと上げて家を出た。

日は暮れて外は真っ暗。やってきたのは阿波座駅。

駅からちょっと歩いたところにずっと行きたかったカフェがある。

その名はTAKAMURA COFFEE ROASTERS。

ここは私が通っていた専門学校の裏にあって、よく授業サボって来ていた。

大阪に戻ってからまだ一度も来れてなかった。やっと来れた。

元々は倉庫だったらしいが、改装してカフェになったそうだ。

今のところ大阪のカフェで1番好き。

ここに来ると昔の思い出がぶわっと蘇る。

しょーもない話、たくさんしたなぁ。

就活の話とか、真面目な話もたくさん。

地下鉄のホームの匂いとかも学生時代を思い出す。

学校終わりに22時まで働いて、ヒールで足痛い。もう歩けない。歩くのしんどい。って友達と喋りながら、渋谷のギャルみたいにホームでう◯こ座りしてた。

今思うとかなり行儀悪い。

今風に言うと、学生時代はバ畜だった。

当時は「バ畜」という言葉はまだなかったので「社畜」と言っていたけれども。

でもそのおかげで友達はたくさんできた。

その中の数人とは、今でも定期的に連絡を取り合う仲だ。

9月13日に祖母が亡くなった。

私にとっては実母よりも母みたいな存在だった。

なかなか受け入れられなくて、祖母の遺品をたくさん持って帰ってきた。

電気毛布をはじめ、服、小物、化粧品など。

大体はクローゼットの中に置いてる思い出ボックスにしまっている。

でも最近寒くなったので、電気毛布を解禁した。

広げたら祖母の髪の毛がたくさんついてて、

取りながらなんだか切なくなった。

白と黒の髪の毛。

普通だったら何個考えずにゴミ箱に捨てるけど、

もうこの世にいない人の髪の毛だと思うと捨てられなかった。

一本一本取って、ティッシュに包んで思い出ボックスへ。

亡くなって2ヶ月経つけど、まだ祖母のことをふとした時に思い出して涙が出てしまう。

心にぽっかり空いた穴が塞がらない。

何かで塞がねば、予定を入れねばと思うのだけど、

何かで塞ごうとすればするほど、隙間から何かがこぼれ落ちていく。

電気毛布の匂いを何となく嗅いでみたら、祖母の家の匂いがした。

その瞬間ぶわっと、家の様子が脳裏に浮かんで、また涙が止まらなくなった。

子供の頃の記憶から直近までの記憶が走馬灯のように流れ、

会話ができるうちに今までの謝りたいことを伝えられなかった後悔が押し寄せる。

匂いと記憶は直結してるってほんとだった。

一人、また一人と身内が減っていくのが怖い。

いつか別れが来たとき、もっと会っておけばよかった。話しておけばよかった。と思わないよう、たくさん身内には会っておこう。

人の死は突然訪れるから。